蠍は留守です考

蠍の輪郭を見つめてふける思惟の痕跡

20170509013806

JIS X 8341-3 についての予復習 vol.2 (等級、原則などについて)

JIS X 8341-3 についての予復習の続き。今回は特に等級、原則、アクセシビリティ・サポーテッドについて、もうちょっときちんと意味の確認をしておきたい。

一年ほど前の公開レビューの際に公開されたデータをJIS X 8341-3 改正原案 「高齢者・障害者等配慮設計指針 - 情報通信における機器・ソフトウェア・サービス - 第3部:ウェブコンテンツ」の公開レビューから見ることができるので、その中の資料を読みつつ、気になった部分や分からない部分をピックアップしてみる。

このJIS改正原案は,JIS 改正の審議に活用し,また原案の内容を変更することなく公開レビューの趣旨を添えて配布する限り,複製・再配布・転載は自由です。

とのこと。とりあえず、一部転載しつつ自分なりに思ったことをまとめてみたい。

アクセシビリティ達成等級

2010年版改正 JIS X 8341-3 では、ウェブコンテンツのアクセシビリティ達成等級が3段階で規定される。改正原案からの抜粋引用は以下の通り。

4 ウェブコンテンツのアクセシビリティ達成等級

箇条7において規定するウェブコンテンツに関する要件への適合の程度をウェブコンテンツのアクセシビリティ達成等級とよび,次のように規定する。

a) 等級A 等級A(適合の最低レベル)で適合するには,ウェブページが全ての等級A達成基準を満たすか,又は適合した代替バージョンを提供する。
b) 等級AA 等級AAで適合するには,ウェブページはすべての等級A及び等級AA達成基準を満たすか,又は等級AAに適合した代替バージョンを提供する。
c) 等級AAA 等級AAAで適合するには,ウェブページがすべての等級A,等級AA,及び等級AAA達成基準を満たすか,又は等級AAAに適合した代替バージョンを提供する。

注記 ウェブコンテンツによっては等級AAAを完全に満たすことができない場合があるため,箇条6で策定するウェブアクセシビリティ方針として等級AAA適合を採用することは推奨しない。

等級には3段階あって、まずは最低限等級Aを目指せ、ということなのだろうか? せっかくだから等級AAA目指そう! と思うかもしれないけれど、まずは等級Aをクリアしてから等級AAを、それができたら改めて等級AAAを考える、ということ?

個々の達成基準を追っていくと、どうしたって難しい基準がちらほらとあるのが分かる。たとえ技術的な問題がクリアできたとしても、デザイン面およびコスト面での等級AAAクリアとか、到底無理な感じがある。なので、注記のような内容が付記されているのだろう。状況によって等級宣言を選べばよさそうである。

一般的原則

2010年版改正 JIS X 8341-3 では、以下の原則に則って、さらに詳細な達成基準が設けられている。

5 一般的原則

一般的原則は,次による。

a) 知覚可能に関する原則
情報及びユーザインターフェースの構成要素は,利用者が知覚できる方法で提示される。
b) 操作可能に関する原則
ユーザインターフェースの構成要素及びナビゲーションは,利用者が操作可能である。
c) 理解可能に関する原則
情報及びユーザインターフェースの操作は,利用者が理解可能である。
d) ロバスト性に関する原則
コンテンツは,支援技術を含む幅広い様々なユーザエージェントが確実に解釈できるように十分にロバストである。

注記1:
JIS X 8341-1:2009 4.1 一般原則では a) 最も幅広い利用範囲に対する適切性,b) 公平な利用,c) ロバスト性,の三つを原則としている。この規格における一般的原則は,これらの三つの原則をウェブコンテンツにおいて実現するために,利用者の特性及び支援技術を含むコンテンツの利用特性に基づいて具体化されたものである。

注記2:
この規格に等級AAAで適合しているコンテンツであっても,利用者の障害の種類,程度,又は障害の重複などによっては,すべての人々が利用できるとは限らない。特に,認知,言語及び学習障害をもつ人への対応においては注意が必要である。JIS X 8341-1:2009 5.3 のプロセスを参照して,高齢者・障害者を含む多様な人々の利用の状況を理解し,特定し,アクセシビリティに対するニーズを把握し,解決策を作成し,評価する設計プロセスへの取組みを進めることで,この規格を超えたより高いアクセシビリティの確保・向上を進めることができる。

「ロバスト(Robust)」とは頑健さのこと。外乱や設計誤差などの不確定な変動に対し、その影響を受けずにシステム特性が現状を維持できることを意味するのだそうだ。ちょっと難しいし、単語としてははじめて聞いたが、なんとなく分かった気はする。

サイトを作る側はこうした原則に則ってサイトを制作し、確実に試験すればよいということではありそう。

アクセシビリティ・サポーテッド

またまた耳慣れない言葉が出てきたが、2010年版改正 JIS X 8341-3 では「アクセシビリティ・サポーテッド」の考え方が非常に重要になってくると思う。この考え方が示されることで、ユーザエージェントとウェブコンテンツの責任分担がはっきりするからである。

ウェブコンテンツを制作・開発するときに重要なことは,ウェブコンテンツは,ユーザエージェントが理解できて利用者に提示できるような方法で提供されていなければならないということである。WCAG2.0の"accessibility supported"の定義では,ウェブコンテンツ技術(又は,ウェブコンテンツ技術の機能)のアクセシビリティ・サポーテッドな使用法であるとみなすための二つの条件を次のように規定している。

a) ウェブコンテンツ技術のその使用法が,利用者の支援技術によりサポートされていなければならない。これは,そのウェブコンテンツ技術の実装方法が,コンテンツの自然言語で使用する利用者の支援技術との相互運用性において検証済みであるということである。
かつ,
b) そのウェブコンテンツ技術には,利用者がアクセシビリティ機能を利用可能なユーザエージェントがなければならない。これは,少なくとも次の四つのうちの一つが当てはまる。

1) そのウェブコンテンツ技術が,(HTMLやCSSといったウェブコンテンツ技術がそうであるように,)広く配布されているユーザエージェントで元々サポートされていて,そのユーザエージェントでもアクセシビリティ機能が利用できる。
又は
2) そのウェブコンテンツ技術が,広く配布されているプラグインでサポートされていて,そのプラグインでもアクセシビリティ機能が利用できる。
又は
3) そのコンテンツが,大学又は企業内ネットワークのような閉じた環境で利用可能で,そのウェブコンテンツ技術が必要としていて組織が使用しているユーザエージェントも,アクセシビリティ機能を利用できる。
又は
4) そのウェブコンテンツ技術をサポートするユーザエージェントでアクセシビリティ機能が利用できて,次に示す条件でそのユーザエージェントをダウンロード又は購入可能である。
・障害のない人よりも障害のある人が時間や労力がかかるようなことはなく,
・障害のない人と同じくらい容易に障害のある人も探して入手することができる。

ちなみに用語の定義としては、それぞれ

  • ウェブコンテンツ:ユーザエージェントによって利用者に伝達される情報及び感覚的な体験を指す。コンテンツの構造,表現,及びインタラクションを定義するソースコードやマークアップを含む。
  • ユーザエージェント:ウェブコンテンツを抽出して利用者に提示するあらゆるソフトウェア。注記)ウェブブラウザ,メディアプレーヤ,プラグイン,およびその他のプログラム。ウェブコンテンツを受け取り,レンダリングし,利用する(インタラクションする)ことを支援する支援技術を含む。

とされている。

なんだかとても難しい感じがする。そもそも言い回しが超絶分かりにくい。仕様を理解するどうこうの前に、日本語の読解力を試されている気さえする。なんで仕様書とか解説書ってこんなに難しいのか。これって理解可能に関する原則を超えているのではないか。

そんなこんなを無理やりざっくり言ってしまえば、ウェブコンテンツ自体がアクセシブルな方法で制作されていて、ユーザエージェントや支援技術がそのコンテンツを適切に理解・出力できれば、ユーザはそれらを用いてウェブコンテンツをアクセシブルに利用できる(=みんなハッピー)という理解で問題ないという解釈でいる。間違っていたら教えてほしい。

ともかく、コンテンツを制作する側だけが頑張っても十分ではなくて、ユーザエージェント・支援技術の対応状況と折り合った適切な実装をすることによって、はじめてアクセシビリティが実現するという考え方だと理解している。

「アクセシビリティ・サポーテッド情報」を作成・公開する必要もあるとのことで、このあたりについてはディレクション段階から仕様書・解説書をよく理解して準備する必要がありそうだし、実装担当者は当然その情報をチェックして作業に臨まなくてはならない感じだが、とても大事なことだと思うのでしっかり準備したい。


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