蠍は留守です考

蠍の輪郭を見つめてふける思惟の痕跡

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色のアクセシビリティ・チェックツール aDesigner

アクセシビリティ強化月間につき、2回にわたってカラー・コントラスト・アナライザー富士通アクセシビリティ・アシスタンスを取り上げてきた。第3弾は、エーデザイナーの紹介。

aDesigner エーデザイナー

aDesignerは、IBM東京基礎研究所さんで開発されたツールで、すでに Accessibility Tools Framework (ACTF) に寄贈されている。ACTF版 aDesigner のページからダウンロードできる。

IBM東京基礎研究所といえば、aiBrowser(IBM Accessibility Internet Browser for Multimedia )が有名ですが、aiBrowser が視覚障害者向けのブラウザなのに対し、aDesigner は制作者を支援するためのツール。その内容は全盲ユーザーのための音声閲覧を視覚化する機能、各種アクセシビリティ・ガイドラインへの適合性のチェック、オフィス文書やアプリケーションの評価など多岐にわたる。

今回はその中からロービジョンユーザーの見え方シミュレーションを取り上げる。ロービジョンという言葉の定義ははっきりしていないようだが、日本では弱視全般をそう呼ぶことが多いようだ。

aDesigner では「視力」「色覚異常」「水晶体透過率」の3つを組み合わせて、様々なタイプのロービジョンユーザーを網羅してシミュレートすることができる。

視力1.0、第一色覚異常の場合のシミュレーション

視力を1.0、色覚特性を第一色覚以上、水晶体透過率を20歳代に設定した。ペルソナ的な言い方をすれば第一色覚特性のある若者である。

この設定でのシミュレーションでは、カラー・コントラスト・アナライザーやColorDoctorでシミュレートした時と大きく変わらない結果が表示される。逆に言うと、カラー・コントラスト・アナライザーやColorDoctorでのシミュレーションでは、高い水晶体透過率が想定されているということ。

aDesigner 視力1.0、第一色覚の場合のチェック画面、aDesigner 視力1.0、第一色覚の場合の見え方シミュレーション、aDesigner 視力1.0、第一色覚の場合の見え方シミュレーション2

視力0.3、水晶体透過率60歳代の場合のシミュレーション

次に、視力を0.3、色覚特性なし、水晶体透過率を60歳代に設定した。とても目の悪い高齢者にとってどう見えるのかというシミュレーションになる。

白い背景は黄色く濁っているし、文字はごにゃごにゃとぼやけているし、画面全体がかすんで非常に読みづらく感じる。結果を眺めているだけで目が悪くなってしまった気分になる。

aDesigner 視力0.3、水晶体透過率60歳代でのチェック画面、aDesigner 視力0.3、水晶体透過率60歳代での見え方シミュレーション、aDesigner 視力0.3、水晶体透過率60歳代での見え方シミュレーション2

水晶体の透過率は、加齢によって低くなると言われている。いわゆる白内障も水晶体が濁ることによって起こるが、高齢者の多くはこうした症状により視界がかすんだりぼやけたりして見えづらい状態なのだそうだ。そうした現状が言葉では理解できても、ツールで視覚化されなければ、こんなに見えづらいだなんて正直想像できない。想像力なんてものは案外貧困であることを痛感する。

カラー・コントラスト・アナライザーや富士通アクセシビリティ・アシスタンスでは、水晶体透過率まではシミュレートすることができないが、aDesigner ではそれができるのが強みだと思う。

ロービジョンにもいろいろある

「視力」「色覚異常」「水晶体透過率」の組み合わせを変えるだけで、実に様々なシミュレーションをすることができた。それだけたくさんの特性を持つ方がいるということだ。デザイナーとして色彩の知識やツールを使用するためのスキルはもちろん必要だが、様々な特性の人がいるという認識を持つことも大事だと感じる。

JISなどの決められた規格をクリアすればあとは何でもOK、というのもひとつの正しさではあるし、確かにまずはそれをクリアすることでプロと呼べる仕事になるのかもしれない。さらにその上で、自分の制作したものを目にしてくれるかもしれない人の存在を意識したり、見え方を想像したりするのを止めてはいけないとも感じている。

いくつかのツールを組み合わせて使うだけでも、こんなふうにいろんな発見ができるので、少しでも興味を持っていただいた方は使ってみてほしい。必要があれば、開発者にフィードバックするのもアリだと思う。

みんなでちょっとだけずつ工夫することで、今よりもうちょっと、皆のハッピーに近付けるかもしれない。

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